梅林⑥
  木下沢梅林は山の中腹までいっぱいに紅白の梅で埋め尽くされていた。

「花といわば かくこそ匂いは ほしなれば・・・」
花という以上は これくらいの香りがしてほしい・・・(現代訳)

光源氏が初春に咲いた紅梅の枝を手にして、最愛の女性「紫の上」に語りかけた言葉。                                    紫式部 「源氏物語」より

 2月はの見栄えする美しい月である。梅は奈良時代に中国から伝来したバラ科サクラ属の落葉高で、その香りは桜とともに日本の春を象徴する代表的なものだ。特に紅梅は当時の人々に愛された花でもある。例年1〜2月は大雪が降りがちだが、その雪解けを待たず早くしてほころび初め、清らかな香りをあたりに漂わせるのだ。その花に人々は、厳しい冬から抜け出す兆しを感じて、大切に思って植えられてきたのだそう。

梅木②梅木①
 白梅が太陽の光に照らされてキラキラと輝いていた。

 前日の春の嵐も過ぎ、晴天の日曜21日午後、「高尾梅郷」を訪れた。3月中旬には桜とあわせての梅・桜祭りが2日間開催されるのだが、何だかそれでは「梅」がもったいないなと感じた。やはり2月のうちに早めの梅の花や香りを楽しみに行こうと思いたって出かけてみた。訪問先は八王子市の裏高尾町にある小仏峠へ至る街道で、その途上に全部で6箇所の梅園が点在する。道々の家にはすべてといってもいいほど庭に梅の木が植えられており、長い間高尾の山を眺めて来たであろう老木もみごとな花々を咲かせていた。その梅郷の一つ”木下沢”で車をとめ、山肌に植えられた多くの梅の花々を眺めた。薄白く煙ったように咲いている白梅と、やや咲き終わり間近の紅梅の上品な香りに圧倒されながら写真を撮る。ここはすでに8分咲きで今が見頃。タイミングが良かった。梅を求めてたくさんの花見客がそぞろ歩いていたのが印象的。人の気持ちも花になぞられて春を願っているんだろう。梅も花冥利に尽きるというものだ。

梅林①
 梅林の点在する地域を中央線が走り抜ける。

 2年前のことだが、思い立って白梅と河津桜のポプリを作ってみた。用意するものは白梅枝1本、河津桜1本、岩塩1袋、直径30センチほどの平たいお皿。作り方は皿に1センチほどの厚さで岩塩を敷く。そこに白梅と河津桜の花を敷き詰めていく。あとは乾くまで放置(2週間ほど)それからガラス瓶などに詰めて香り高いバスソルトとして使えるポプリの完成だ。実際、白梅のポプリは優秀で、その上品な香りも飛ぶことなく結構長続きする。お風呂で使ってもいい香りにうっとりとするほど。玄関など皿ごと置いて梅と桜の香りを楽しめて、とても気持ちが良い。先週には仕事の合間に、同じく梅の見事な 「福生神明社」 のしだれ梅も鑑賞してきた。うすい桃色のそれはそれは上品な”しだれ梅”で、毎年気になっていたものだが、今年は見頃を外さないで行くことができた。しだれ梅にはそれぞれ名前がついていて、待ちぼうけとかだったかな?まだまだ可愛い名前の梅があり、来年はちゃんとメモを取って忘れないようにしようと思う。

梅木③
 道なりのお寺の境内にも見事な紅梅が咲いていた。

 1年に1回しか出会えないと思うと、人との出会いに似て本当に大事に思える開花の時期。来月は春の到来を告げる水仙や桜など花々の共演が楽しみだ。まだまだ花の香りや由来などにも興味は尽きない。そんなふうに春は、花の魅力を存分に味わえる素敵な季節だよね。

     源氏の君も見たであろう鮮やかな紅梅梅林⑤