4月の夏日。4月18日 東京都西多摩郡日の出町にて撮影。
本の出版流通に携わる人々すべてに言いたい。あなたがたは天使的な仕事に従事しているのだ。天使とは何か?それは~中略~読み得ぬということの距離感そのものであり、この無限の距離が解消されることの極小のチャンスなのです。
「切りとれ、あの祈る手を」 佐々木中・著 (河出書房新社)より
新年度に入って早3週間。猛烈に忙しい日々が続くなか、営業先の顧客が毎週のように1件、また1件と閉店していく。この現象にはさすがに、件数減少以上の身を切られるような辛さが伴う。言わばボディブローのような感じで、後々津々と心に追い打ちとなって効いてくるのである。
最近は特に、世間で言われる「出版不況」や「若者の活字離れ」といった記事を新聞や各メディアで良く目にする事が多くなった。確かに街の本屋は次々と姿を消し、巨大モールや商業施設に大型書店チェーン店が入るのが現在よくあるパターンのようだ。
学園都市八王子のデザイン的な建物(工学院大学①)
紙の書籍の販売額は2006年あたりから毎年激減し続けてきた。これでは閉店が多くなるのもあたりまえ。ではなぜ?ここまで紙の書籍の売り上げが落ち込み続けるのか? もちろんスマホの普及が大半で、あの小さい画面の中のワールドに民衆が引き寄せられた事には間違いはない。
しかし、実のところメディアで謳われていることと現実では、少し事情が異なる。出版不況は、紙媒体と電子媒体を合わせて考える必要があり、2013年以降、書籍よりも一段と厳しい雑誌も含めた市場では本当のところ、ゆるやかな回復の兆しが出てきているという。(電子書籍調査ビジネス報告書より)
そして、若者の活字離れの現実は、決して若者の読書量が減っているわけではなく、特に小中高生に限って言えばむしろこの10年上昇傾向なのである。また、読書といったカテゴリーには入らないとは思うが、SNSでの情報発信を自ら進んでやり定期ブログを書く事で、かえって現代は活字中毒の時代なのではないか?とも思わせる。
もう一つ。本当のところ書店減少は、残念ながら閉店に歯止めをかけられず続いている。今まで同様の雑誌中心の商品ばかりが目立ってきた品揃えの店は、今後もますます淘汰されて行くようだ。ただ、ブックコーディネーターという新たな肩書を持つスタッフを有する個人書店だけは、今もって大人気になっている。また、現在カフェとの併設は当たり前で、そこでの新進作家などのトークイベントなどは毎週のように開催されている。
工学院 ②
もう今では、メディア発信のお仕着せの流行や珍らしい事柄を、一般人は求めなくなってしまった。逆に、自分で良いと思った人・物や場所、食べ物などを自分でチョイスし、話を聞き撮影し、編集して投稿するといった一連の取材感覚そのものが一般人の一番魅力的な行動になっているのだ。それをSNSに投稿する事で身近な人に観てもらい「いいね!」と評価を貰う。しかもタダ同然で。これが生き甲斐や個人の満足感を多いに満たしている。
思うに、出版社や本を売る直接のリアル店舗は、生き残るために今一番必要な事として今まで通りの書籍の展開だけでなく、個人の情報発信力を刺激するような、品揃え・陳列をして今の空気感をしっかりと捉える事が重要となる。もちろんそこには、圧倒的なセンスを持つブック・コンシェルジェなる人材がいればなお良い。そういった人材育成にもっと企業側も投資すべきだろう。
雑誌が売れなくなって当然の背景には、発行のタイムラグが情報の遅延を生んでしまう事で「もう、遅い!」と言わざるを得ない事情があり、そんな新鮮じゃない雑誌を出すわけには行かない。それぐらいネットでの1次情報はスピードが速いものだ。そこから少々のタイムラグを持って大丈夫な記事のみを選抜しても、内容の薄い情報誌になり下がったツケが追い打ちをかける。
私が電子出版で書籍を出したのがもう2年前。まったく在庫も持たず、売上も気にならない、たとえ売れなくても心が折れず痛みのない方法での出版経験をさせて頂いたが、毎日たった1冊でも売れていれば立派なものかな?とも言える。
お店で並んでいる本たちが、どれだけ棚を専有し売れずに返本されて行くことか、わたしには電子出版が身の丈にあった書き方だったのかも・・・と、今更ながら声をかけてくれた出版社に感謝している。出版業界の片隅で、毎日頑張ってレビューを書き、電子出版で著書を編んでいる身からすると、もはや紙の書籍への神話は崩れる一方だ。
しかし、この状況を大いに救うのが実はコミックの世界だろう。電子書籍の何と、90%はコミックの売り上げだそう。しかも紙のコミックも売れ行きは年々上昇中だ。わたしが現在、検索レビューで取り組んでいる作品『リアル』は、著者が「スラムダンク」の井上雄彦氏。今年満を持して、「スラムダンク最新リニューアル版」が今後出るそうで、『リアル』の売上も相乗効果が期待できる作品だ。コミックの持つ熱の高さが今の出版業界を支える大きな柱となっている。
こうして、わたしの持つ使命とも言うべき出版業界への貢献点は、紙の書籍の持つ価値をもっともっと引き出して行くことにある。売りたい商品をしっかり売る。独自のスタイルを持つセンスの高い書店を担当することにほかならない。多分しばらくは閉店の憂き目にあう現場は避けられないんだろうな。それでもそれを事実として受け止め、新たな気持ちでこの出版不況に挑みたい。
ではどうするか?まず暗くなる必要はないだろう。
この上段にある引用にも示した通り、一生かかっても読み切れない、価値の宝庫を伝える天使的な仕事なのだから。
楽観的になったほうが勝ちってことかな?
いつものようにね(笑)